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KORG・D32XDのオーバーホール [音楽]

 2014年9月に中古で購入したコルグのマルチトラックレコーダー(MTR)・D32XDは、経年劣化が進んで高音域の落ち込みが目立つようになった。また、操作でよく使う右端にあるジョグダイアルは操作の動きに追随せず出鱈目に動いてしまい、使い物にならないほど酷い。
劣化の進んだD32XD
この症状は、もう一つあるD16XDも同じである。(汗)
 買い足したTASCAM・DP-32SDがあるから全く何もできない訳では無いのだけれど、やはりあるのに使えない状態というのは何かと不便。「やっぱり直そう!」内部で使われている電解コンデンサ類を調べてネット上で発注、数日後自宅に届いた。
自宅に届いた箱
中身は全て電解コンデンサで、D32XDとD16XDの2台分である。
大量の修理用コンデンサ
電解コンデンサはオーディオ用でも安い物は1個15円前後、高くても1個150円しない程度なのだが、これだけの量になると1万円近くの金額となる。
# 仕方ないけれど、痛い出費だ...(>_<;)

 分解し始める。本体裏側に並ぶネジを外す。
裏側のネジを外したところ
両側のネジは、内部のステーを固定する物なので、緩める必要は無い。
両サイドのネジは外してはいけない
奥の面(入出力端子の並ぶ側)のネジも外すと蓋が外せる。
置く側のネジ3本も外す
なお、内部には基板を繋ぐケーブルがあちこちにあるので、いきなり引き上げたりして断線させないように注意が必要だ。
内部には配線がたくさんあるので注意が必要
コネクタを外して分離させる。
コネクタを外すと分離できる
 電源部とアナログ回路部は、下の蓋にまとまって取り付けられている。
電源部とアナログ回路部
 電源回路を見ると、意外な事にスイッチング電源のみだ。
スイッチング電源
アナログ回路とデジタル回路が共存する場合、アナログ用の電源はスイッチングノイズを嫌ってトランス式を使うのが一般的。この電源構成は初めて見た。
 ちなみに、どの基板にも電源を受ける部分にはノイズを抑える為のコイルやコンデンサが配置されていて(丸で囲んだ部分)、電源からのノイズ侵入を食い止める構造になっている。
ノイズ侵入防止の回路

 スイッチング回路を取り出して見ると、やはり低ESRタイプのコンデンサが使われている。
スイッチング電源はLow-ESRコンデンサが使われている
見た目では劣化が無いのと、今回も低ESRタイプのコンデンサは用意していないので、触らずにそのままとする。
 オプションのアナログ・インプット・ボードAIB-8は、ネジで止められているだけだ。
AIB-8はネジ止めされているだけ
全てが固体コンデンサで、今のところ交換の必要は無さそう。
個体コンデンサが使われている
個体コンデンサが使われている
 入力回路部はノイズ対策なのか、金属板が被せられている。
入力回路部は金属板で覆われている
ネジやナットを外して金属板を外す。
外した金属板
透明な樹脂の突起は、基板上にあるチップLEDの光を表面に伝える為の物だ。
 入力回路はアナログなので、対応するチャンネル分のコンデンサがある。
チャネル毎にコンデンサがある
わざわざコンデンサの種類が変えてある部分がある。
コンデンサの種類が違う
使われている電解コンデンサは全てSAMXON製で、ネット上の情報に依るとオレンジ色はロングライフ・タイプ、紺色は汎用品だそうな。ファンタム電源の電圧に耐える為だろうか、どちらも耐圧が63Vになっている。
 今回は63Vタイプを入手できなかったので、200Vタイプ(両端の太い物)に交換する。
コンデンサの大きさ比較
ただでさえオーディオ用は大きいのに、耐圧が高いもんだから更に大きくなってしまった。(汗)
 数が多いので、古いコンデンサを取り外すだけでも結構な作業になる。
コンデンサを2列外したところ
新しいコンデンサは太くてそのままでは入り切らない為、まずは互い違いに取り付ける。
一つ置きに取り付けたところ
コンデンサの足を加工して取り付け位置をずらす。
コンデンサの足を加工する
何とか全部収める事が出来た。
何とか収まった
結構ギリギリだけど、動作には支障は無い筈。
基板とのクリアランスがギリギリ
 電源を受ける部分の回路にあるコンデンサは液漏れしたような痕がある。
液漏れしたような痕が見える
こういうのは上から見ても分からないから、見た目だけで判断するのはとても難しい。
 増幅回路部は新しいコンデンサが大き過ぎて金属板にぶつかるので、横倒しにして取り付ける。
ぶつからないように横にして取り付けたところ
端の方は一寸ギリギリになってしまったけれど、何とか収まった。
何とか収まった
この基板一枚だけでも結構な数を交換した。
交換が終わった入力回路部
両面基板なので半田ゴテで完全に溶かすのは難しく、コテを当てて溶かしながら引き抜かないと上手く外せない。しかもアース面に接続していたりすると、銅箔の面積が大きいので熱容量が大きくなり、長時間温めないとハンダが溶けない。しかし、ICやトランジスタは熱に弱いから何でも長く温めれば良いという訳にも行かない。交換する箇所毎にどうするかを考えてからコテを当てる事が多く、この基板1枚だけでほぼ半日掛りっきりになった。

 次はヘッドフォンやペダルスイッチなどのアナログ出力部だ。
アナログ出力部の基板
こちらは数が少なく、梃子摺るような事も無かったのですんなり終了。
交換し終わった基板

 交換の最後はデジタルとアナログが混在するメイン(?)基板である。
メイン基板
マスターアウトやモニターアウトの部分は使用頻度が高い為か、出力側に入っている電解コンデンサの頭が少し膨らんでいる。
電解コンデンサの頭が少し膨らんでいる
こうなると音質への影響がかなりある筈。
 角にある電源を受ける部分のコンデンサはローインピーダンス・タイプの物が使われているけれど、やっぱり液漏れしたような痕がある。
液漏れしたような痕がある
交換するコンデンサのサイズはたまたま同じだった。
交換するコンデンサのサイズはほぼ同じ
この基板も抜けないコンデンサが多くて苦労する。かなり無理して抜いてもハンダが残ってしまい、穴が塞がった状態になる。ICが近くにある為に長時間コテを当てる事が出来ない場合は、ピンバイスでハンダに0.6mm位の穴を開ける。
ドリルでハンダに穴を開けているところ
こうすれば、長時間の熱でIC類が傷む事は無いけれど、何度もやってると手が疲れてくる。
 新しいコンデンサの方がサイズが大きい為、あちこちで収まりが悪くて足を加工して逃がしたりした。
場所的に厳しい
スペース的に余裕が無い
基板の実装密度がかなり高いので、一寸サイズが増えただけでも厄介な事になりがちだ。
ギュウギュウ詰めとなった
この基板も交換するのに半日以上掛かってしまった。
IMG_4286.JPG
上に載る基板の都合で1個だけ基板外へ飛び出させる格好となってしまったけれど、筐体に収まる事は確認済みなので問題無い。

 最後はジョグダイアルが載っている操作部の基板である。使われている電解コンデンサは3個だけだ。
ジョグダイアルの載る操作部基板
ジョグダイアルはすんなりと外れないので「こりゃ中に何かあるな。」無理して引っ張れば壊れてしまうので、とりあえず基板から外した。
ジョグダイアルを基板から外したところ
一見嵌め込んだだけに見える。樹脂と部品の隙間からマイナスドライバーを差し込んで丸いツマミを外したら、ナットで固定されていた。
樹脂部品はナットで固定されている
道理で外せない訳だ。ナットを外すと、ロータリーエンコーダー単体となる。
使われているロータリーエンコーダー
分解に取り掛かるが、このカシメ方は初めて見る。調べたら、どうやらTT Electronics製らしい。
初めて見るカシメ方
精密ドライバーで慎重に押さえ金具の爪を起こし、何とか分解できた。
ロータリーエンコーダーを分解したところ
ロータリーエンコーダーの接点となる円盤部は酸化して流れ込んだらしいグリスのような物で表面が錆びかかっている。これだけ傷んでいれば電気的な抵抗になってしまうのは避けられない。だから動作がおかしかったんだな。
 エレクトロニッククリーナーで油分を流し取り、NevrDull(ネバーダル:金属磨き)で試しに左半分を力を入れて磨いてみたら何とか奇麗になった。
接点の左半分を磨いたところ
基板に取り付ける側の接点も磨く。
もう片方の接点も磨く
接点全てを磨いたら、慎重に元通りに組み立てる。
組み立てたロータリーエンコーダー
 ネジ穴の裏側にアース接点があるので、念の為に磨いておく。
アース接点を磨いているところ
コンデンサも交換した。
完成した基板
全ての基板を元の位置に収め、配線も元通りにして蓋を閉めれば作業は完了である。
 交換したコンデンサは全部で150個だった。
交換したコンデンサは150個

 子供に早速使って貰ってみた。曰く「抜群に音が良くなったし、ジョグダイアルも普通に動くようになった」と。
 実は「静電気対策を何もやらずにデジタル回路を触っちゃったけど、大丈夫だったかなぁ?」と少々不安だったけれど、一安心。でも、まだD16XDのオーバーホールがあるんだよなぁ。(汗)
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