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音の出ないスティングレイ5弦を直す(その2) [電子回路]

前回からの続き)

 一気に潤滑剤CRC-556特有の臭いが広がった。
 20年以上前になるけれど、「接点復活剤の代わりにCRC-566を使う」というのはよく聞いた話である。当時はエレクトロニッククリーナーや接点復活剤は高価だったし入手し難かったので、簡単に手に入って安い潤滑油で代用していたのだ。
 CRC-556にも多少の洗浄作用はあるので緊急避難的に使うのはやむを得ないけれど、修理に使うのは許される話ではない。洗浄能力が弱いので、ボリュームに使われているグリスを緩める力はあるけれど、洗い流してしまうほどではない。だから、流れ出したグリスがあちこちに散って悪さをする事が多い。
 基板をピックガードから外すと、やはり基板上にグリスが広がっている部分があった。
基盤にもグリスが広がっていた
こうなると、ボリュームを分解清掃しなければならず、厄介だ。
 ジャックを外すと、メッキがかなり錆びている。
ジャックのメッキも錆びている
全体的に金属パーツの痛みが目立つので、湿気の高い場所に長期間置かれていたのかも知れない。
 基板を取り出すと、こんな感じ。
プリアンプ基板を取り出したところ
こじんまりとまとまっているけれど、今ならチップ部品を多用して半分以下の大きさにするだろう。
 ボリュームを基板から取り外す。16mmΦ汎用品とほぼ同じサイズだ。
外したボリューム
裏ブタを外すと、案の定グリスが流れてグチャグチャになっている。
内部はグリスまみれ
全て分解してグリスを拭き取った。
全分解してグリスを拭き取ったところ
抵抗体の表面はグリスの成分と反応したのか、ザラザラだ。これでは本来の抵抗値にはならないだろう。
抵抗体表面がザラザラ
NeverDull(ネバーダル:金属磨き)で磨いたら、(画像ではあまり変わらないように見えるけれど)奇麗になった。
奇麗になった抵抗体
抵抗体と接触する端子も劣化して黒くなっている。
端子面も黒くなっている
こちらも磨いて奇麗にした。
端子を磨いて奇麗にしたところ
基板上の部品と配線を全て記録し、回路図を作成しておいた。こうしておけば、後々何かあっても対応が楽になる。
 元通りに組み立てて、外部の電源を接続して動作確認をする。
動作を確認中
出力側に奇麗な波形が出るので、回路に問題は無い。
奇麗な波形が出力された
音の出なかった原因は、ボリューム内部の接触不良だったようだ。
# こうなるから、電気系統にCRC-556を使うのは御法度なんだよねー。
ジャックも真鍮ブラシで錆を落としてから取り付ける。
ジャックの錆を落としたところ
基板をピックガードに仮止めして本体に取り付ける。その際、キャビティからシールが出てきた。
キャビティから出たシール
この本体は2001年8月24日に製造されたようだ。

 弦は、手元にあったAcoustic Scienceを使う。
Acoustic Scienceの弦
開封したら、中から乾燥材が出て来た。
弦の中から出て来た乾燥剤
ここまで気を遣っているメーカは見た事が無い。
 弦を張ってからアンプに接続して確認するが、特定の9V電池を入れると音は出ない。「何でだ?」
弦を張っても音は出ない
調べると、基板に電池の電圧が来ていないと判る。本体裏側の電池ボックスを確認する。
本体裏側にある電池ボックス
接点が何故かベトベトしているけれど、電気が全く流れないほどではない。一旦、本体から取り外す。
取り外した電池ボックス
日本のパーツメーカー・ゴトー製だ。
電池ボックスはゴトー製
電池を入れて確かめてみると、電池の種類によってはマイナス側の電極が電池ボックスの電極に当たらず、通電しない。
電池によっては電極に接触しない
通電しなければ動かないのは当たり前だ。手持ちの9V型電池は3種類ある。
9V電池は三種類
画像左から、普通のマンガン9V乾電池、ニッケル水素9V型充電池、リチウム9V型充電池だ。見た目の電極のサイズはあまり変わらないように見える。
電極の大きさは似たり寄ったり
実際に測ってみると、マンガンのマイナス電極は8.5mmだが、他の充電池は8.6mmだった。
マイナス電極を測定中
たった0.1mm大きいだけで電池ボックスの筐体に閊えてしまい、電極に届かないのだ。(汗)
 早速筐体を削る。
筐体を削る
電極が邪魔になるので取り外し、丸い穴をカッターナイフで慎重に削って拡げた。
穴を削って拡げたところ
これで大きな電極でも問題無くなった。
これで閊えなくなった
元通りに組み立てておく。

 ピックガードを取り付け、ピックアップ切り替えスイッチのつまみを付けようした時、先端が錆びているのに気が付いた。
スイッチの先端が錆びている
錆を削り落としておく。
錆を落としたところ
ピックガードに基板をきちんと取り付ける。
基板をピックガードに取り付けたところ
更に、各ポットにテフロンのワッシャーを入れる。
テフロンのワッシャーを入れたところ
高価格帯のベースだけに、こういうところもきっちりと造り込まれているのは流石だ。
 つまみを取り付け、弦のオクターブ調整を済ませたら完成だ。
完成したStingray5ベース

 ちなみに、プリアンプの故障などをきっかけにプリアンプを取り払ってパッシブにする人も多いようで、ネット上にもそういった記事をよく見かける。パッシブにするとスティングレイらしさは消え、普通のジャズベースのような音になるらしい。
 それが好みなら良いのだけれど、だったらスティングレイをわざわざ選ぶ理由が無い。また、「スティングレイはフェンダー系と比べると低音域が足りない」という意見もあるようだ。

 作成した回路図を見ると、他のプリアンプとはかなり違う回路になっていて、音の特徴はプリアンプ部で作り出されている事が良く分かる。市販品なので回路図を公開することはしないが、技術者が試行錯誤を重ねて作成したであろうことは想像に難くない。
 ということは、このプリアンプをジャズベースに搭載すればスティングレイに似た音が出せるという事にもなる。増減させる帯域は回路の時定数で簡単に変えられるので、エレキギターなどにも応用できそう。

 プリアンプ基板には、エッチングされた「Rev.D」の表記が入っている。年代によって回路を変えているからだろう。
 巷では「プレ・アーニーの方が太い音が出る」とも言われているが、これはボディやピックアップの構造が変わったのではなく、プリアンプ回路が変更された為だ。プレ・アーニーの音を出したいのなら、回路にあるフィルターを変更すれば良い。部品数点を交換するだけだ。
# 著作権上の問題により、ここでは具体的な方法には一切触れないので、各自でお調べ下さいな。
このベースはライブでの使用事例が多い事から、近年のモデルは敢えて80Hz辺りから下の帯域をカットしてハウリング等を起こし難いサウンドに仕上げられている。だから、使い方によっては「低音域が足りない」と言われるのは当然だと思う。
 因みに「プレ・アーニー」とは、「Ernie Ball(アーニー・ボール)に1984年に買収される前」のモデルを指す。Musicman(ミュージックマン)は1972年設立なので、設立から買収されるまでの12年間に製造された物が「プレ・アーニー」と呼ばれているようだ。Ernie Ball買収後はどのモデルも様々な変更を受けているので、初期の音を求める層にはプレ・アーニー物は重要なのだろうと思う。

 単純に「欲しいベースが安く出ている!」という事から手に入れたけれど、大いに勉強になった。(笑)

(完)
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コメント 5

みうさぎ

おはよーございます。0.1mmの世界なんですねっまずはめでたしメデタシ(^^)d

by みうさぎ (2019-11-08 06:36) 

Rifle

みうさぎさん
些細な事ですけど、電気が流れないと回路って動かないんですよねー。原因が分かった時には脱力感を感じましたけど。(笑)
by Rifle (2019-11-08 08:43) 

tama

知らないことばかりでいろいろ勉強になりました。
音が出なかったことで、スティングレイをとことん味わい尽くしたって感じですね。
Rifleさんのスキルに脱帽。めでたしめでたし。

by tama (2019-11-08 09:00) 

middrinn

CRC-566がよく使われたのなら、同じ原因で故障しているものが多いのかな(@_@;)
拝見拝読していると、鑑識に似てますねぇ(⌒~⌒) プロファイリングみたい(⌒~⌒)
by middrinn (2019-11-08 09:25) 

Rifle

tamaさん
大した事無くて、電子工学科出身なら誰にでもできるレベルです。(^^;)
実際に音を出すと低音域が薄い感じなので、初期型と同じ音になるように、そのうちに時定数を変えようと考えています。

middrinnさん
楽器店で雑談してると話に出てきたりするので、CRCの犠牲になった音楽機材は結構多いと思います。
弦楽器、特にエレキギターやベースは機種毎に詳細な変遷を調べ上げたサイトが結構あったりします。バイオリンなどに比べれば圧倒的に新しい楽器ですが、世に出て半世紀以上経ちそれなりの歴史が出来上がってきた、という事なんでしょうね。
by Rifle (2019-11-08 09:40) 

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